三月三十一日

こんな小さな干潟に 流れのぶつかる場所がある そこで 静かな供儀の最中だったが わたしは白いパスポートをかざした 合鴨の通行許可を得 そして護岸でビート板を捨てた 葦畑を通り過ぎ、家につく もう部屋は暑い 月の重さに引かれて 角閃石は震えだし 先頃す…

ひろい車内 美しい電話を 列車の座席に置いてきた 二時頃 ブーン と 震えている 少女のはく靴はしっとりとしてためいきが窓をふりかえると おかしな天気雨で町はすっかり 水浸しになる 道を あけてくれますか 道を あけてくれますか しろい空が億劫で もうか…

巡礼

話し、つづけ歌い、つづけ歩き、つづけるうち清冽で敬虔なこの疲れは巡礼のまなざしに服従した沈丁花の香りがこの腕を吹きすぎて残留した冬の薄い陽はプレパラートを浸潤し転落する睡りにはいまだほど遠く被膜の侵される、よろこびの幼さがたえずさざめかす…

deliver

語源を辿ってゆくその水脈はいつも、人々の生が積もらせ、踏み固めてきた地層の下底を流れているものだから、その流れに触れるという行為は、残照のような人知のきらめきに私たちの生を透かすよろこびをつねに伴う。 冬にある英語の講義を受けた。それは大学…

船出に捧ぐ詩

さぎりに浮かぶ あの船は わたしを語ってくれますか みどり児撫ぜる 春かぜに あなたをよそえられたなら この胸に生けた 藤色のブローチを あたたかな羽に変える 遠いまばたきを繰り返していたい 岬にうずもれるその産毛に わたしも いつまでも朽ちていきた…

散歩

100パーセントの散歩をしたのはいつぶりだろう。もしかしたら、物心ついてからはしたことがなかったかもしれない。目的もなしに、音楽も聴かず、ただ知らない道を歩くこと。小学生の時でさえ、夢中で歩く先は公園だったり、誰かの家だったりしたような気がす…