三月三十一日
こんな小さな干潟に
流れのぶつかる場所がある
そこで
静かな供儀の最中だったが
わたしは白いパスポートをかざした
合鴨の通行許可を得
そして護岸でビート板を捨てた
葦畑を通り過ぎ、家につく
もう部屋は暑い
月の重さに引かれて
角閃石は震えだし
先頃すれ違ったあの人も
黄泉のうたかたを舐めている
春
衝突したてのオレンジが
樋のむこうに生えそろう
湧かしたミルクを飲むと、舌がざらつくから
おかしいなと思って鞄を開けたら
毛羽立った羊虫が合成皮革を噛み殺し
紙類はぜんぶ粉々
シボレーに乗った叔父さんの靴下が
執拗な感じで
内ポケットにびっしり張り付いている
「かばんごと捨てるしかないよなあ」と君が言う
「やましいことなんか何もしてないのに
すごく臭いわ
お気に入りのバッグだったの」
蚕豆をついばむ手つきが
クロード・ドビュッシーの音楽に混ざり合い
格子窓のむこうでポプラが腫れ上がる
——この男がやったんだ、とわたしは気づく
僕の手紙も食われちゃった?
またさ、同じ手紙書く、よ
煮崩れたクラクションが鳴り響いた
葉桜は押し黙ってそれを見守るだろう
テーブルの下
彼のこむら返りが止まらなくなる
意味もなくわたしは帽子を裏返す
明日は鯰を食べよう、とふたりは思う