2019-01-01から1年間の記事一覧

ひろい車内 美しい電話を 列車の座席に置いてきた 二時頃 ブーン と 震えている 少女のはく靴はしっとりとしてためいきが窓をふりかえると おかしな天気雨で町はすっかり 水浸しになる 道を あけてくれますか 道を あけてくれますか しろい空が億劫で もうか…

巡礼

話し、つづけ歌い、つづけ歩き、つづけるうち清冽で敬虔なこの疲れは巡礼のまなざしに服従した沈丁花の香りがこの腕を吹きすぎて残留した冬の薄い陽はプレパラートを浸潤し転落する睡りにはいまだほど遠く被膜の侵される、よろこびの幼さがたえずさざめかす…

deliver

語源を辿ってゆくその水脈はいつも、人々の生が積もらせ、踏み固めてきた地層の下底を流れているものだから、その流れに触れるという行為は、残照のような人知のきらめきに私たちの生を透かすよろこびをつねに伴う。 冬にある英語の講義を受けた。それは大学…

船出に捧ぐ詩

さぎりに浮かぶ あの船は わたしを語ってくれますか みどり児撫ぜる 春かぜに あなたをよそえられたなら この胸に生けた 藤色のブローチを あたたかな羽に変える 遠いまばたきを繰り返していたい 岬にうずもれるその産毛に わたしも いつまでも朽ちていきた…